「…わかりました」
少し申し訳なさそうにユーリは頷いた。


#002 追っ手






あ いつが笑っている。
黒い髪をなびかせて。
こちらに手を伸ばす。
その手をとろうと俺は手を伸 ばした。






突 如そこに声が割り込んできた。
『――ル』
誰だ?
もう少し――









「セ イル!」
俺の意識はそこで覚醒した。
「………ユーリ…?」
「目的地、着きましたよ?」
こ の二月で彼女はとても成長した。
言葉がとても流暢になり語彙が増えた。
今では普通に会話が成り立つ。
ユー リはとても丁寧な言葉使いをする。
たまに意味の取り違いがあるがそれくらいは大目に見よう。


「悪 い。すっかり熟睡してたみたいだ」
そういいながら少女と連れ立って列車を下りる。
「いいえ。最近疲れていたみた いですし…」
ユーリは少し暗い顔をする。
「お前が気にする事じゃない」
俺は少女の頭をぽん と叩く。
昨日も彼女を追ってきた研究所の奴らを相手にしたためユーリはそのせいで俺が疲れているのだと気にしているようだ。


初 めてアヴェリアからの追っ手が来たのは彼女を拾った次の日の夜だった。
相変わらず壁に背を預けて休んでいる彼女を残し部屋を出ようと した時だった。
突如窓ガラスが割れユーリぐらいの少女2人と少年1人が入って来た。
ユーリは素早く立ち上がるが うめき声を漏らし、脇腹を押さえて崩れるように座り込んだ。
そんな彼女に少年は容赦なく剣を振り下ろした。
ガ キッ
と金属のぶつかる音が響いた。
俺はユーリの前に立つと咄嗟に隠し持っていた短刀でその剣を受け止めていた。
「誰 だお前ら」
そう睨みつけながら言うと
「W-7531」
少年が答える。
表 情が全く動かない。
「アヴェリアの研究所の奴か。こんな夜中に何の用だ」
「任務」
「「「『X -4869を抹殺せよ』」」」
少女達が言いながら抜刀した。
「私、まだ、死なない」
背後で ユーリが立ち上がるのがわかった。
少女がユーリに飛び掛かる。
「ユー…っ!」
隙を見て少年 に掴みかかると窓から投げ飛ばして振り返るとユーリは少女2人相手に丸腰でほぼ対等に戦っていた。
これには俺も驚いた。

鍛 え抜かれた流れるような体術。
相当訓練を積んだに違いない。

一人が床に投げ出される。

そ こでぼーっと突っ立っていた俺は我に返る。
投げ出された少女が無表情のまま起き上がって再びユーリに向かって行くのを俺が阻止した。
俺 はその少女も窓の外に投げ捨ててユーリを見ると傷が開いたのかしゃがみ込んだ彼女に少女が剣を振り下ろそうとしている所だった。

「ま…っ!」


手 を伸ばす、が間に合わない。
剣が振りり下ろされる。






そ の時だった





ピィーーーッと 聴こえるか聴こえないかそれぐらいの笛のような高い音が響いてぴたりと少女が振り下ろしていた手を止めた。

ユー リの額の手前で剣の刃が止まる。
「撤退…」
そう呟くと少女は見を翻し窓から外へ飛び出して行った。
慌 てて窓に駆け寄ると人影が3つ街を駆けていくのが見えた。
「畜生、逃がすかよ」
俺は愛用の大剣を取りに部屋へ向 かおうと扉へ向かった。

その時

「……っぅ」

押 し殺したような小さな呻き声が聞こえて慌ててユーリに駆け寄る。
脇腹が血で赤く濡れそぼっていた。

「待っ てろ、包帯の変え取ってくるから」
研究所の連中は後回しだ。
まずはユーリの手当をしないと。

「…… で」
自分の部屋へ向かおうと立ち上がりかけたとき、小さな声がした。
「え?」
俺はユーリを 見た。

「何で、護った?」


彼女は眉をよせて泣き そうな顔をしていた。


その目に涙はなかったが。

「人 を護るのに理由がいるのか?」

そう聞くと彼女はぽかんとした顔でこちらを見返した。

「理 由がいるなら、そうだな…。今のお前の場所は俺のとこだから、
いつかお前が自分の意志で俺から離れるまで俺はお前を護るよ。それじゃ だめか?」

まあ護る必要もないかもしれないけれどと笑うと意味を図りかねた少女は首を傾げた。
「約 束な」
俺は彼女の細い小指に自分の小指を絡ませ微笑んだ。
少女は繋がれた小指をじっと見つめていた。

こ うして俺は今、ユーリには秘密でアヴェリアについて調べつつ彼女に世界を見せるため旅をしていた。
だが当然旅には金がいるわけで。

「俺 はギルドの場所聞いてくるからちょっと待っててくれ」
各地のギルドで仕事をもらって稼ぎながらの旅だった。
ユー リは危険なものでもなんでも、いつでも仕事を手伝ってくれる。

「今回は危険な仕事もらうと思う。昨日ので財布が ほぼ空だ」
そう言って笑うと。
「…わかりました」
少し申し訳なさそうにユーリは頷いた。
昨 日の襲撃で宿を大層破壊したため有り金を半分以上取られたためだ。
「じゃあ聞いてくる」
そう言ってユーリをその 場に残し駅の入口へ向かった。








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