「ユー リ、いい名前だろ?」
セイルはそう言ってニカッと笑った。

#001 名前

「何 やったらこんなに怪我するんだよ…」
俺は傷の手当をしながらぼやいた。
見れば見るほどひどい怪我だ。

街 角で助けた少女はそうとう弱っていて俺が担いでなんとか宿まで来た。

「撃たれた…」
少女が ぼそりと言った。
「だから何で撃たれるんだよ?普通は撃たれないだろ?」
俺がそう言うと少女は口をつぐんでし まった。

最初に見掛けた時から不思議な感じのする少女だとは思っていたが、
近くで見ると余 計に不可思議な所が見受けられる。

この少女の容姿は色の白い肌に俺と同じで黒髪に黒い瞳で、肩より長い髪を後に 流している。

見た感じやほんの少しだが発せられた言葉の調子からして
あまり気の強そうな子 ではなさそうだ。

服装は彼女の雰囲気にそぐわない
囚人の着るような白い服で
足 は裸足だった。

また彼女の右肩におされた焼き印も余計に謎を深めている。

手 当が終わると告げると少女はベッドの角に壁を背にして膝を抱えて座った。
警戒心剥き出しだ。
俺は溜息をつくと
「こ の部屋は君が使ってくれ。」
とだけ言い部屋を出ようとした。


「X- 4869…」
突然少女が呟いた。
「何だ、そのえっくすよんはち何とかって」
俺は振り返る。

「私。 呼び名」
彼女は酷くたどたどしく喋る。
あまりまともな教育を受けて来なかったようだ。

「何 か番号みたいだな」
俺が呟くと少女はまた口を開いた。
「X-4種類、869識別番号」種類?
何 のことだ?

「お前普通の名前は?」

「『オマエタチハジッケンヨウノマ ウスニスギナイ。名ナドヒツヨウナイ』」
意味は理解していないのだろう、台本に書かれた台詞でも読むように少女は言った。
「誰 が言ったそんなふざけたこと」
自然と眉間に皺がよる。
「研究所、ニンゲン」

「い いかユーリ。名前ってのは親とかがすっげえ思いを込めてつける大事な贈り物なんだぜ」
俺は椅子を移動し彼女と向き合うようにして座っ た。
「ユーリ?」
彼女は首を傾げた。
「お前の名前。名付け親は俺な」
わ かりやすいようにジェスチャーをつけて話す。

ユーリ。
愛しい少女。

「ユー リ、いい名前だろ?」
そう言って笑うと少女はきょとんとした顔でこちらを見た。
「嫌か?」
そ う尋ねると
「やじゃ、ない」
と小さな声が返ってきた。
大分警戒心も薄れてきているようだ。
「ど この研究所から来た?」
「アウ゛ェリア」

「!」
アヴェリア…。
聞 きたくない地名だった。


過去の映像が
過ぎる。

ア ヴェリアはよくない噂を多数持っていた。
彼女も犠牲者なのだろうか。

「おっと、もう休んだ 方がいいな」
少女が重度の怪我を負っていたことを思い出し考えることを止めた。
そう言って立ち上がりベットへ入 る事を促すが少女は壁に背を預けたままだ。
俺は苦笑いしてため息をつくと部屋をあとにした。

『彼 女』と少女が重なる。



今度こそ護るよ、『ユーリ』。


俺 は拳をきつく握り締めた。




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